Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “早く 春来いvv”
 


冬の始まり、年の瀬あたりと比べれば、
随分と陽が長くなり、特に夕方はいつまでも明るくなった。
陽があるだけでも暖かさの保ちようは ずんと違うし、
昼間はそれこそ濃くなった陽の下で、
伸び伸びお元気に駆け回っては、
いっぱいの色々、見て来た聞いて来たのよと。
晩の御膳を囲みつつ、身振り手振りも忙しく、
語って聞かせる幼子の様子へ皆して和む、
そんな今日この頃だったりし。

 「くうちゃ〜ん。」

とうとう都にはさしたる大雪も降らぬまま、
何年かぶりに積もるトコまで行かなかった冬だった。
そんなせいでもあるまいが、
とってもお元気な仔ギツネ坊や、
一番小さな家人の坊や、
書生の瀬那くんがちょっと目を離すと、
屋敷の中から姿を消して、
裏山へたかたか遊びに行っており。

 『確かにまだまだ寒いし、雪もあちこちに残っておろうが。
  それは住人たちにも同じこと。』

寒さへは防寒効果も高い冬毛がちゃんと間に合うだろうし、
裏山といっても実質は小さな森程度の規模で、
さほど危険な獣はおらなんだはず。
最も危険な“けだもの”は、くうが手なづけてしまったから平気だろうよと。
どっかから苦情が来そうなお言いようをして平然としていた蛭魔ほどには、
まだまだ泰然とはしておれぬ、世話焼きの小さなお兄さん。
おやつの時間にも戻って来なかったおとうと弟子を案じ、
こちらさんは、憑神さんからいただいた毛織物のすとーる巻いて、
よっこらおっこら、森の中を捜して回る。

 「くうちゃ〜ん。そろそろご飯だよ〜、もう帰ろ〜。」

木々の間を縫っての降り落ちる、金色の陽射しもまだまだ高いが、
山の手の陽は秋とは別な意味から落ち出すと早い。
稜線に遮られての落陽を背に下界へと戻るのは、
道を間違えやすくて危険だからと。
それでの早く帰ろうとのお出迎えなのだけれど、

 “おかしいなあ。”

まだ阿含さんは冬眠中だと聞いてるし、
他にもこうまで時間を忘れて遊ぶよな、そんなお友達っていたかしら。
くうちゃんは人の姿にも変化出来るが、
そもそもは狐の仔なだけに、小さい動物ほど怖がって寄って来ない。
本人には食べるつもりなど さらさらないのだが、
それでも本能が働いてのこと、
小鳥や野ネズミ、ウサギなどが寄れないのは当然の理屈でもあり。
なので、独り遊びに飽きれば、
すぐにも“せぇな〜♪”と、遊んでと帰って来るのが常だのに。
姿がなかなか見えないものだから、それが不安へと塗り変わりかかる。
そんなの滅多に思うもんじゃあないとは思うけど、
それでも…まだまだ幼い和子だけに、
蝶を追っての転びもするだろ、
逃げる野ネズミも鬼ごっこの相手にするのかも。
風の音にはしゃいで、思わぬ遠くまで運んでしまいもするかも知れず。
あああ、案じ始めるとキリがないじゃあありませんかと、
頭を抱えたくなったころ、

 「せぇなvv」

聞き慣れた幼いお声がし、え?と辺りを見回せば、
ここいらでは唯一 緑の葉を残してた、刃みたいな熊笹の茂みから、
甘い栗色の髪乗せた、真ん丸頭がひょこりと出て来た。

 「くうちゃん。」

は〜〜〜っと胸をなでおろすお兄さんの傍らまでへ、
ちょこちょこ出て来た小さな坊や。

 「ごはん?」

屈託のないお声で聞くのへと、そうだよと微笑って頷けば、

 「じゃあ帰ゆvv」

くしゃりと目許をたわめての、満面の笑顔がなんとも稚
(いとけな)い。
皆まで言わせずの察しのよさへ、いい子になったねと褒めるついで、
これも真ん丸でふわふかな、ぎゅうひの餅のよな頬へと触れれば、

 「わ。凄い冷たいねぇ。」

すべらかな肌は、だが、実はキツネの毛並みのはずで。
それが随分と冷たいのは、
よほどのこと風にさらされていた証拠ではあるまいか。
現に、

 「せぇなは あたかいvv」

きゃうと微笑ってそのまま、
くうちゃんの方からも小さな手を延べて来るものだから。
小さな躯を懐ろに引き寄せると、

 「ほら、キツネさんへ戻って。」
 「うっvv」

ぽよんと気が弾けてのその場には、
5歳くらいの男の子よりもずっと小さな仔ギツネが現れるから。
小さくて細っこい身を抱えると、自分の羽織る外套の袷
(あわせ)のそのまた下、
くつろげた小袖の懐ろの中へともぐり込ませて差し上げる。

 《 はう、あたかいvv》

きゃっきゃと弾む無邪気なお声へ、愛しい気持ちが沸いてのこちらも、
胸の奥のほうが暖かくなったセナくんで。

 「じゃあ、急いで帰ろうね。」
 「うっ、帰ゆvv」

今晩のご飯はね、
キビのお砂糖とショウガとでほくほくに柔らかく煮た山鳥と、
東の遠方から葉柱さんがもらって来た、キンメとかいうお魚の一夜干しだよ?

 「キンメ!」
 「くうちゃん、知ってるの?」
 「うっ、真っ赤っ赤なのっしょ?」


  ―― あのね、あぎょんが前にくれたの。美味しかったの。
      それは…葉柱さんへは言わない方が。

何でなんでと問われて、
父親同士の鞘当てや焼き餅なんてもの、どう説明したらばいいものか、
ちょっと困ったセナくんだったりし。
様々な想いや意図に、皆様の心も弾んで揺れてる昨今ですが、
何はともあれ、春も間近なようでございます。



  〜Fine〜 09.03.09.


  *お父さん同士(?)の鞘当ては、
   何もこの頃 始まったもんじゃあないような?
(笑)

めーるふぉーむvv ぽちっとなvv

ご感想はこちらへvv  

戻る